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貿易保険に加入して、貿易のリスクを回避する
この記事の要点3行でわかる結論
- 貿易で代金が回収できなくなる原因は、取引先の倒産や不払いといった相手側の事情と、送金停止や戦争といった相手国側の事情に分かれます。前者は与信調査や取引条件で減らせますが、後者は自社では防げません。
- 備えとして保険に入る場合、保険料は期間の経過に応じて損金になります。支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用は、継続適用を条件に支払った事業年度の損金にできます(法人税基本通達2-2-14)。
- 保険金は支払を受けるべきことが確定した事業年度の益金です。逆に損失の額は、保険金で補塡される部分を除いて計上します。回収不能となった売掛金の貸倒損失は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の要件に当てはまるかで判断します。
貿易は、契約から入金までの期間が長く、相手の顔が見えにくい取引です。商習慣も法制度も違う相手と、国境をまたいで物とお金を動かします。国内取引と同じ感覚で与信を判断していると、回収できなくなったときの傷が大きくなります。
備えの方法はいくつかあります。取引条件を工夫する、与信調査を行う、信用状を使う、そして保険をかける。この記事では、まず貿易のリスクを整理したうえで、保険料・保険金・貸倒れの税務上の扱いを確認します。保険そのものの商品内容や料率は制度を運営する機関でご確認いただくとして、ここでは経理と申告で判断が必要になる部分に絞ります。
1. 貿易のリスクには、どんな種類があるか
代金が回収できなくなる原因は、大きく2つに分かれます。
ひとつは取引先側の事情です。取引先が破産した、支払期日を過ぎても払ってくれない、船積み前に一方的に契約を解除された、といったものです。
もうひとつは相手国側の事情です。相手国で為替取引が制限されて送金できなくなった、輸入が禁止された、戦争や内乱が起きた、大きな自然災害があった、といったものです。取引先に支払う意思と能力があっても、国の事情でお金が動かなくなります。
この2つを分けて考えるのは、対処の方法が違うからです。前者は自社の努力である程度減らせます。後者は減らせません。
2. 備えは保険だけではない
取引先側の事情によるリスクは、契約と与信の工夫で減らせます。
- 取引条件を変える。代金の一部または全部を船積み前に受け取れば、回収できない金額そのものが減ります。前受金を受け取った場合の会計処理は別の記事にまとめています。
- 信用状(L/C)を使う。銀行が支払いに関与する形にすることで、相手企業の信用リスクを銀行の信用に置き換えられます。
- 与信調査を行う。取引を始める前と、その後も定期的に相手企業の状況を確認します。
- 与信限度額を決める。1社あたりの売掛金の上限を社内で決め、超える注文は条件を変えて受けます。
そのうえで、自社の努力では防げない部分、あるいは減らしきれない部分に保険をかけます。日本では、貿易に伴うこうしたリスクを対象とする公的な保険の制度が用意されています。対象となる取引の範囲、てん補される割合、保険料の水準は制度と商品によって異なりますので、加入を検討する際は制度を運営する機関に直接ご確認ください。
この記事では、加入した場合に経理・申告でどう扱うかに話を進めます。
3. 保険料は、いつ損金になるのか
保険料は、保険期間の経過に応じて損金になるのが原則です。事業年度末の時点でまだ経過していない期間に対応する部分は、前払費用として資産に計上します。
ただし、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用については、支払った事業年度の損金にする扱いが認められています。いわゆる短期前払費用です。
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(法人税基本通達2-2-14)
国税庁法人税基本通達 第2章第2節第2款(2-2-14 短期の前払費用)
ポイントは継続してという条件です。利益が出た年だけ支払時に損金算入し、翌年は期間按分に戻す、という使い方は認められません。どちらの方法を採るかを決めたら、その方法を続けてください。
なお、保険料は消費税では非課税取引です。仕入税額控除の対象にはなりませんので、会計ソフトの税区分は「非課税仕入」で登録します。
4. 保険金を受け取ったときの扱い
保険金は益金です。計上する時期の考え方は、損害賠償金と同じ整理になります。国税庁の通達は、他の者から支払を受ける損害賠償金について次のように定めています。
他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。
(注)当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補塡される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(法人税基本通達2-1-43)
国税庁法人税基本通達 第2章第1節第7款(2-1-43 損害賠償金等の帰属の時期)
この通達の(注)が、実務では重要です。損失を計上するときは、保険金で補塡される部分を除いた金額で考えるということです。
損害の発生した事業年度に損失の全額を落とし、保険金は翌事業年度に益金として計上する、という処理をすると、2つの事業年度に利益が振り分けられてしまいます。保険をかけている取引で回収不能が起きたときは、保険金の請求額と損失の額を対応させて考えてください。
受け取った保険金は、消費税では不課税です。資産の譲渡や貸付け、役務の提供のいずれにも当たらないためです。
国税庁No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例
やました君
会計ソフトで保険金の入金を処理するとき、税区分が「課税売上」のまま登録されている例をよく見かけます。保険金は不課税です。金額が大きいと課税売上割合が動き、仕入税額控除の金額まで変わってしまいます。
5. 代金が回収できなくなったとき — 貸倒損失の3つの型
保険で補塡されない部分について、売掛金を落とす(貸倒損失を計上する)ことができるかどうかは、次の3つのどれかに当てはまるかで判断します。
(1)金銭債権が切り捨てられた場合
会社更生法・民事再生法などの規定により切り捨てられた金額、債権者集会の協議決定などで合理的な基準により切り捨てられた金額、債務超過の状態が相当期間続いていて弁済を受けられない場合に書面で明らかにした債務免除額。これらは、その事実が生じた事業年度の損金になります(法人税基本通達9-6-1)。
(2)金銭債権の全額が回収不能となった場合
債務者の資産状況・支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度で損金経理できます。担保物があるときは、処分した後でなければ損金経理はできません(法人税基本通達9-6-2)。一部でも回収の見込みがある間は使えない、という点に注意してください。
(3)一定期間取引停止後に弁済がない場合等
継続的に取引していた相手の資産状況・支払能力等が悪化して取引を停止し、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過した場合。あるいは、同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がない場合。この場合は、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を損金経理できます(法人税基本通達9-6-3)。対象は売掛債権に限られ、貸付金は含まれません。
国税庁法人税基本通達 第9章第6節第1款 金銭債権の貸倒れ(9-6-1〜9-6-3)
海外の取引先が相手の場合、(1)の手続は現地の法制度に沿って進みますし、(3)の「1年以上経過」は事実の確認そのものに時間がかかります。督促の記録、相手からの回答、現地の代理人とのやり取りを残しておいてください。これらが後で判断の根拠になります。
6. 貸倒引当金と、保険で担保されている部分
貸倒れに至る前の段階では、貸倒引当金を検討することになります。貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に分けて計算します。
繰入れができる法人は限定されており、普通法人であれば、事業年度終了の時の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるものなどが対象です(大法人による完全支配関係がある法人などは除かれます)。
国税庁No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定
国税庁No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲
保険との関係で押さえておきたいのが、個別評価の際に除かれる「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」です。通達はこれを次のように説明しています。
令第96条第1項第1号及び第3号《貸倒引当金勘定への繰入限度額》に規定する担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額とは、質権、抵当権、所有権留保、信用保険等によって担保されている部分の金額をいうことに留意する。(法人税基本通達11-2-5)
国税庁法人税基本通達 第11章第2節第2款 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金(11-2-5)
e-Gov法人税法施行令(96条 貸倒引当金勘定への繰入限度額)
保険で担保されている部分は、回収の見込みがあると見て引当ての対象から外れる、という考え方です。加入している保険がここでいう「信用保険等」に当たるかどうか、また、てん補されない部分がどれだけ残るかは、保険の内容によって判断が分かれます。決算前に保険証券と約款を確認し、顧問税理士と確認しておいてください。
7. 実務で何に気をつければよいか
- 保険料の処理方法を決めて、続ける。期間按分にするか、短期前払費用として支払時に落とすか。年ごとに変えないでください。
- 保険金の請求と損失の計上を同じ事業年度で考える。損失は保険金で補塡される部分を除いた金額で検討します。
- 消費税の税区分を分ける。保険料は非課税仕入、保険金は不課税です。
- 回収の努力の記録を残す。督促のメール、相手の回答、現地代理人への依頼。貸倒れの判断でも保険金の請求でも同じ資料が必要になります。
- 売上の計上時期を先に固める。いつ売上を計上したかが決まらないと、いつの売掛金が焦げ付いたのかも決まりません。
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8. まとめ
- 貿易のリスクは「取引先側の事情」と「相手国側の事情」に分けて考える。前者は取引条件と与信で減らせる。
- 保険料は期間の経過に応じて損金。1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用は、継続適用を条件に支払時の損金にできる(法人税基本通達2-2-14)。
- 保険金は、支払を受けるべきことが確定した事業年度の益金。実際に受け取った事業年度に計上することも認められている(法人税基本通達2-1-43)。
- 損失の額は、保険金または共済金で補塡される部分を除いて計上する。
- 貸倒損失は、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3つの型のどれかに当てはまるかで判断する。
- 個別評価の貸倒引当金では、信用保険等で担保されている部分は取立ての見込みがあるものとして除かれる(法人税基本通達11-2-5)。
- 消費税では、保険料は非課税、保険金は不課税。会計ソフトの税区分を確認する。
回収できなくなった輸出代金の処理を確認したい場合
当事務所では、貸倒損失・貸倒引当金の判断、保険金との対応、消費税の税区分の点検をご相談いただけます。過去の決算にさかのぼった確認にも対応しています。ご相談はこちら
よくある質問
貿易保険の保険料は、いつ損金になりますか?
原則は保険期間の経過に応じて損金になり、まだ経過していない期間の分は前払費用として資産に計上します。ただし、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用は、継続適用を条件に支払った事業年度の損金にできます(法人税基本通達2-2-14)。利益が出た年だけ支払時に落とす、といった使い方は認められません。
受け取った保険金は、いつの事業年度の益金になりますか?
支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度です。実際に支払を受けた日の属する事業年度に計上している場合も認められます(法人税基本通達2-1-43)。同条の注書きにあるとおり、損失の額は保険金または共済金で補塡される部分を除いて計上するため、損失と保険金は同じ事業年度で対応させて考えてください。
保険料と保険金の消費税の区分は、どうなりますか?
保険料は非課税、保険金は不課税です。保険金は資産の譲渡や貸付け、役務の提供のいずれにも当たらないためです。会計ソフトで保険金の入金を「課税売上」のまま登録している例をよく見かけますが、金額が大きいと課税売上割合が動き、仕入税額控除の金額まで変わってしまいます。
回収できなくなった輸出代金は、どんなときに貸倒損失にできますか?
法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3つの型のどれかに当てはまるかで判断します。会社更生法等により切り捨てられた場合、資産状況・支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合、取引停止から1年以上経過した場合等です。全額回収不能の型は一部でも回収の見込みがある間は使えず、担保物があるときは処分後でなければ損金経理できません。
保険をかけている売掛金にも、貸倒引当金を設定できますか?
個別評価では、信用保険等によって担保されている部分は「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」として除かれます(法人税基本通達11-2-5)。加入している保険がこれに当たるか、てん補されない部分がどれだけ残るかは保険の内容によりますので、決算前に保険証券と約款を確認してください。
<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。保険の内容や加入の可否については、制度を運営する機関または保険会社にご確認ください。個別の税務判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。





